義務化された認知症介護基礎研修について解説
認知症介護基礎研修とは?
認知症介護基礎研修は、介護に直接携わる職員のうち、医療や福祉関係の資格を持っていない初心者に向けた研修です。2001年に全国で開始された「認知症介護実践者等養成事業」の中に創設されました。
「認知症介護実践者等養成事業」とは、認知症介護を充実させるために専門の職員を養成することを目的としています。その中で認知症介護基礎研修は、認知症介護の基礎を学ぶ入門的な研修の位置づけとなっていました。
2024年に義務化
2021年の介護報酬改定に伴い、介護に直接携わる職員に認知症介護基礎研修を受講させることが義務となりました。研修の義務化は、2025年問題や2040年問題を見据えた「地域包括ケアシステムの推進」の取り組みの1つとして実施されます。
2025年には、出生数が約806万人の団塊世代が全て75歳以上となります。国民の4人に1人が後期高齢者となるため医療・介護分野の整備が急務です。また、現在の出生率の低下から2040年には高齢化率が35.3%と推計され、ますます高齢者の割合が増える見通しです。
そこで、高齢者に必要な介護サービスを切れ目なく提供するための取り組みが進められています。取り組みの1つである認知症介護基礎研修では、認知症の人やその家族の視点を重視した上で介護を実施する力を育成します。また、介護に携わる他職種と連携することを踏まえた人材を育成する役割も担っています。
義務化の背景
認知症介護研究・研修仙台センターの報告書では、認知症は高齢者にとって身近な疾患である反面、高齢者虐待の増加を指摘しています。実際に、厚生労働省の調査からも高齢者虐待と認知症の関係が伺えます。
要介護施設従事者などによる高齢者虐待の調査では、虐待を受けた高齢者1,366人のうち、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者が、1,044人(76.4%)という結果でした。また、虐待の発生要因の1位が「教育・知識・介護技術等に関する問題」となっています。
施設従事者以外でも、養護者(高齢者を世話する家族や同居人など)による虐待の発生要因として、被虐待者の認知症の症状が1位になっています。
参考『令和 3 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に 基づく対応状況等に関する調査結果』
認知症は85歳以上の人の4割以上に出現すると言われ、高齢者にとって身近な疾患ですが、虐待を発生させる要因となっているのが実態です。認知症介護には専門的な知識や技術が求められますが、要介護施設従事者による虐待の発生要因にもあるように、介護現場では認知症に対する知識不足が懸念されています。
また、認知症は養護者による虐待の発生要因にもなっているため、介護従事者は認知症の人の家族の視点に立つことも重要となります。認知症介護基礎研修によって、質の高い介護や認知症の人や家族の生活の質の向上につながることが期待されます。
認知症介護基礎研修の対象者は?
対象となる人は?
認知症介護基礎研修は、在宅介護や施設介護に関わらず、認知症介護に従事する人が対象となります。認知症介護の基礎を広く普及させるねらいがあるため、特別な条件や制限は設けられていません。
しかし、特定の資格などを持っている人は免除されるため、実質的には無資格者が対象となっています。次の項目で免除されるケースをご紹介するので、ご自身が対象者かどうか判断の参考にしてみてください。
免除される人は?
次の資格を持っている人は、認知症介護基礎研修の受講義務が免除されます。
医療 | 看護師、准看護師、医師、歯科医師、薬剤師 |
福祉 | 介護支援専門員、実務者研修修了者、介護職員初任者研修修了者、生活援助従事者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、訪問介護員養成研修(一級課程、二級課程)修了者、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、栄養士、あん摩マッサージ師、はり師、きゅう師 等 |
また、次のケースも義務化の対象外となります。
・養成施設の卒業証明書および履修科目証明書により、事業所及び自治体が認知症に関する科目を受講していると確認できる場合。
・福祉系高校の卒業証明書により卒業が証明できる場合。
・認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症介護指導者研修等の認知
症の介護などに係る研修を修了した者。
・介護に直接携わる可能性がない者や人員配置基準上、従業者の員数として算定されない者。
ただし、次のケースは義務化の対象外にはならないため注意が必要です。
認知症サポーター等養成講座の修了者…認知症サポーター等養成講座は、認知症を正しく理解し、認知症の人や家族を温かく支援する応援者を養成するものであり、認知症介護基礎研修の目的や内容と異なります。そのため、義務化の対象者になります。
外国人介護職員…EPA介護福祉士、在留資格「介護」等の医療・福祉関係の資格を持つ者を除いて、従業員の員数として算定され、直接介護に携わる可能性がある者は、在留資格に関わらず義務化の対象になります。
認知症介護基礎研修の内容は?
研修内容
認知症介護基礎研修では、解説動画を視聴して学習し、確認テストなどに取り組んで知識を定着させます。
学習する内容は大きく分けて4つです。
1.認知症の人を取り巻く現状
・認知症に関する政府の取り組み
2.具体的なケアを提供する時の判断基準となる考え方
・認知症ケアの基本理念
・認知症の人の尊厳を守ること、偏見や誤解、その解消
・日常生活や社会生活での意思決定支援
3.認知症の人を理解するために必要な基礎的知識
・認知症の定義や症状の特徴などの基本的な知識
・症状がもたらす影響や出現原因
・認知症の人にとっての環境の重要性
・健康管理や予防
4.認知症ケアの基礎的技術に関する知識と実践上の留意点
・認知症の治療
・認知症の人との関わり方(コミュニケーションの方法や不適切なケア)
・症状への対応方法(症状などを理解したケア/行動や心理症状を理解したケア)
・意思決定を尊重する支援の仕方
・チームによるケアと情報共有
・家族への理解と支援の仕方
認知症ケアについては、事例動画を見ながら具体的な方法を学びます。認知症の人を取り巻く現状から実践的なケアの方法まで身につけるカリキュラムです。
研修の期間・難易度
認知症介護基礎研修は半日程度で終わります。パソコンなどで閲覧するeラーニングとなっており、講義動画(150分)の視聴と確認テスト・自己ワークなどに取り組んで修了となります。
都道府県などにより研修の実施団体は異なりますが、仙台センターの場合は、〇✖問題の確認テストを行います。全問正解しないと次の章に進めませんが、再挑戦が可能なため、難易度は低いといえます。全部の学習内容の受講が修了すると、PDF形式の修了証書が発行されます。
認知症介護基礎研修を受けるには?
認知症介護基礎研修の受講方法は自治体によって異なります。受講する際は、ご自身が研修を受ける自治体のホームページなどで確認してください。ここでは、東京都と大阪府の例をご紹介します。
東京都
対象 | 八王子市を除く東京都内の介護保険施設・事業者などが介護保険サービスを提供する事業所で介護に直接関わる職員。 |
申し込み方法 | 研修実施期間の仙台センターへ直接申し込む。 |
受講料 | 3,000円 |
注意 | 申し込みには、所属先の事業所コードが必要です。 |
大阪府
対象 | 大阪市内・堺市内を除く大阪府内の介護保険施設・事業者などが事業を行う事業所で介護に直接関わる職員。 |
申し込み方法 | 研修実施期間の仙台センターへ直接申し込む。または、株式会社エタンセルの専用サイトに申し込む。 |
受講料 | 仙台センターの場合3,000円 株式会社エタンセルの場合5,000円 |
注意 | 仙台センターに申し込む場合は、所属先の事業所コードが必要です。 |
また、仙台センターでは、次のように受講料が3,000円となる対象自治体が多くあります。
3,000円の対象自治体
現在の無資格者は?移行措置について
認知症介護基礎研修の義務化には3年間の経過措置があり、2024年3月31日までは努力義務となっています。現在、医療や福祉関係の資格を持っていない方が、すぐに違反となるわけではありません。そのため、急いで認知症介護基礎研修を受ける必要はありませんが、2024年4月1日から義務化が始まることを忘れないようにしましょう。
また、今回の義務化は、通所型サービス事業者が従業員に研修を受講させることを義務づけるものです。そのため、違反した場合、行政処分を受ける可能性があるのは事業所となります。
今現在は、事業所で働いていない方も、今後新たに採用された場合は認知症介護基礎研修の対象者となります。受講期間は採用されてから1年間となっているため、採用の前に受講しないといけないわけではありません。
まとめ
2024年以降、介護職で働く際に認知症介護基礎研修の受講が必須となります。義務化には猶予があるため、今は資格を持っていないという方が、すぐに働けなくなることはありません。しかし、介護現場で必要な知識・技術であるため、対象となる方は忘れずに受講しましょう。
また、関連ページでは、初心者向けの介護資格を紹介しています。この機会にスキルアップを目指してみてはいかがでしょうか。