海外で日本語教師として働くには?
資格は必要?
実は、日本語教師として働く際に必須となる資格はありません。日本国内で働く場合は、「認定日本語教育機関」で教員になるために国家資格が必要です。しかし、国外で働く場合は、資格の規定がありません。
とはいえ、日本語が母語でない方に日本語を教えるには、専門的な知識や技術が求められます。資格を持っていなくても、資格保有者と同等のスキルを身につけておくと、現場でも実力を発揮しやすくなります。
一方で、海外で働くには原則として就労内容に応じたビザが必要です。ビザの種類や取得方法は国によって異なります。事前に条件を確認しましょう。
また、求人情報によっては、学歴や職務経歴、日本語教師に関する資格や語学力などの条件を提示されることがあります。
英語などの外国語のスキルは必要?
海外で働くとなると、英語や現地の言語が必要なのか気になる方もいると思います。働く上でも生活する上でも、語学力があることは強みになります。しかし、求人情報の中には現地の言語の習得を必須としていないものもあります。
これには、日本語を教える際の指導方法の違いが影響しています。日本語の教え方には主に「間接法」と「直接法」の2種類があります。
| 間接法 | 直接法 | |
| 内容 | 日本語以外の言語を使って日本語を教える方法。 日本の中学校や高校の英語の授業で、日本語を用いて英語を教えるようなイメージ。 |
日本語のみを使って日本語を教える方法。 ジェスチャーやイラストカードなどを用いて、言葉や文のイメージを伝える。 |
| メリット | 日本語学習者にとって、授業の内容を正しく理解できるため、初心者でも取り組みやすい。 | 外国語が不得意な教師も日本語を教えられる。 学習者にとっては、リスニングやスピーキングの力を鍛えられる。 |
| デメリット | 教師には一定以上の言語スキルが求められる。語学力が不十分だと、学習者に正しく日本語を伝えられない。 | 学習者にとっては、授業の内容を理解できなかったり誤解してしまったりする恐れがある。 教師の説明や教材準備に工夫が必要。 |
このように、直接法では日本語のみを用いて指導するため、授業の中で英語などの外国語や現地の言葉は必要ありません。
しかし、学習者の気持ちに寄り添うことや、その国に滞在することを考えると、現地の言語へのリスペクトは大切です。完璧に理解することはできなくても、相手の言語を知ろうとする姿勢を持つことは、コミュニケーションの基本となります。
就労ビザの取り方は?
就労ビザの種類や取得方法は国によって異なります。渡航先の国の大使館・総領事館で確認できるため、ビザが必要な場合は最新の情報をチェックしましょう。
ここでは、日本国籍の方がフィリピン、中国で働く場合を例に就労ビザの条件をご紹介します。フィリピンのように比較的ビザを取得しやすい国もあれば、中国のようにビザ取得の際に学歴や職務経歴などの条件がある国もあります。海外で働きたい方は、就労ビザ取得の条件についても事前にチェックしましょう。
フィリピンで働く
非移民としてフィリピンで働く場合、「9Gビザ」が一般的です。有効期限は1年から3年間です。尚、6ヶ月以上働く場合は、9Gビザの申請に先立ち、外国人雇用許可証(AEP)の申請が必要です。
必要な手続きの主な流れ
1、外国人雇用許可証(AEP)の取得
フィリピンの受け入れ企業に申請してもらい、受け取ります。
申請は企業が行いますが、顔写真やパスポートのコピーの提出が必要になります。
2、9Gビザの申請
フィリピン移民局(BI)または入国管理局に申請します。提出物は、申請書や外国人雇用許可証(AEP)のコピー、パスポートなどです。
3、フィリピン移民局(BI)による面接
雇用主(代理人可)の同席のもと面接を行います。
4、ACR I-Cardの申請
外国人登録証であるACR I-Cardの申請を行います。
5、9Gビザの承認
ウェブサイトで承認を確認後、ビザ発行のためにパスポートを提出します。
6、ACR I-Cardの受け取り
ACR I-Cardが承認された後、カードを受け取ります。
中国で働く
中国で働く場合、「Zビザ」が一般的です。有効期間は通常1年です。また、中国で働くには就労ビザだけでなく外国籍人材就業証及び外国人居留許可証の取得が必要です。
さらに、中国では外国人就労者が、高度人材(A類)、専門人材(B類)、一般人材(C類)に分類されており、就業許可やZビザを発行するためには申請条件を満たさなければなりません。
日本語教師は通常、専門人材(B類)に該当します。
専門人材(B類)の申請条件
次の①から⑤のいずれかを満たす60歳未満の者
①4大卒以上及び2年以上の関連職務経歴があり、一定の条件を満たす者
②国際的な職業技能資格証書を有するまたは急を要する技能型人材
③平均賃金収入が現地の前年度平均賃金収入の4倍を下回らない者
④外国語教員
⑤国の関連規定に合致する人材
または、学歴や資格、中国語能力などに応じた得点が60点以上の場合も申請可能です。
必要な手続きの主な流れ
日本で行う手続き
1、外国人就業許可通知書の取得
中国の受け入れ企業に申請してもらい、日本で受け取ります。
申請の際には、学歴証明書または職業技能資格証明書、無犯罪証明書、健康診断書などの提出が求められます。
2、Zビザの申請
中国大使館または領事館に申請します。提出物は、ビザ申請書や外国人就業許可通知書の原本及びコピー、パスポートなどです。必要に応じて面接を行う場合があります。
中国入国後に行う手続き
1、「外国人就業証」の申請
中国入国後、15営業日以内に中国の受け入れ企業と労働契約を結び、「外国人就業証」を申請します。提出物は、労働契約書、パスポート、入国後の健康診断書(事前予約必要)などです。
2、「外国人居留許可証」の申請
就業証を受領後、入国後30日以内に申請します。提出書類は外国人居留申請書、パスポート、外国人就業証などです。
どんな求人がある?
世界各地で日本語教師が活躍しています。海外で働くことをイメージしやすいように、求人情報の例をご紹介します。
アジア
| 日本企業のグループ会社の講師(フィリピン) | 国際学校の講師(中国) | |
| 業務内容 | 現地社員向けの日本語授業 週15コマ(1コマ50分)程度の授業 |
専任講師 幼稚園から高校生向けの日本語授業 週25コマ以内 |
| 待遇 | ■給与 月額5万ペソ~7万ペソ (経験・能力により決定) ■福利厚生 家賃補助/赴任・帰任時の航空チケット支給/引越し費用会社負担/現地での医療保険付与/就労ビザ取得費用 など |
■給与 月額16000元以上 (経験・能力により決定) ■福利厚生 就労ビザ取得費用/帰国手当(年1回3500元まで)/保険別途支給/出勤日は校内の食堂で食事無料 |
| 応募資格 | 大卒以上で以下の全ての条件を満たす者 ①日本語教師資格の保有 ②PPT・Word・Excelの基本操作 ③簡単な英語でのコミュニケーションに抵抗がない |
①日本語ネイティブ ②60歳未満で4大卒 ③2年以上の教育関係の職務経験 ④日本語教師資格などの保有者優先 など |
| 採用方法 | 書類選考後、オンライン面接・模擬授業 | 書類選考後、現地面接またはオンライン面接・模擬授業 |
欧米
| オンラインスクールの講師(アメリカ) | 日本語学科の講師(モルドバ) | |
| 業務内容 | 北米在住の学習者へのオンライン授業 1コマ50分クラスの指導 |
現地学習者向けの日本語授業 1日2コマ(1コマ90分) |
| 待遇 | ■給与 コマ数×1800円(3ヶ月の試用期間中1700円) ■待遇 日本国内で勤務可能 |
■給与 700USDドル(住宅補助を含む)修士号保持者優遇有 (2ヶ月の仮採用期間は半額) ■福利厚生 ビザ関係費全額補助/住宅補助 |
| 応募資格 | ①3年以上の日本語講師経験 ②オンライン環境の整備及びツール操作可能 ③オンライン指導経験80時間以上 ④学習者の質問が聞き取れる程度の英語スキル など |
①大卒以上 ②22歳から50歳ぐらい ③日本語教師資格の保有 ④心身ともに健康で異文化理解が深い |
| 採用方法 | 専用サイトより応募 | 書類選考後Web面談 |
仕事の探し方は?
求人の探し方
海外の求人の探し方の例をご紹介します。
専門求人サイト
日本語教育に特化した求人サイトで探す方法です。海外赴任のほかにもオンラインの求人情報もあります。信頼できる内容か見極める必要がありますが、さまざま募集があるため自分の希望や条件に合った求人を探しやすいです。
公的機関
国際交流基金やJETプログラムなど、公的機関の求人情報から応募する方法です。競争率が高いものの安定した雇用や研修制度が整備されている点が魅力です。
資格スクール
日本語教師養成機関の中には、就職支援を行っているところもあります。国内だけでなく海外の求人情報を扱っているところもあるので、在校生や修了生は活用してみてはいかがでしょうか。
応募方法
一般的な就職活動と同様に、書類選考や面接・面談が行われます。海外赴任の求人の場合は、現地での面接ではなくオンライン面接で対応してくれるところもあるので、応募先に確認してみましょう。
応募先によっては、模擬授業を行うところもあります。面接練習だけでなく模擬授業の準備も必要な場合があります。
下調べが大切
現地に行ってからトラブルに遭わないよう、ビザ取得の方法や雇用内容などをしっかりと確認しましょう。SNSなどでも求人情報を探すことはできますが、信頼のできる求人情報から探すのがベターです。
業務内容の確認
日本語教師の仕事は、日本語の授業を担当するほかに、カリキュラム編成や教材作成、現地の教師への指導、卒論やスピーチコンテストの指導といった業務を行う職場もあります。ミスマッチが起こらないよう、面接時に業務内容を確認することをおすすめします。
就労ビザは日本語教師として許可を得て働くためのものです。関係のない仕事をした場合は不法就労として処罰の対象になる恐れがあります。業務の範囲を確認してから雇用契約を交わすようにしましょう。
給与・待遇面の確認
求人情報によっては、「〇〇ドル~」「経験により応相談」と給与額を明記していないものもあります。経験や資格の有無によって給与が変動する可能性があるため、自分の経験や資格の場合はどのような待遇になるのか、事前にすり合わせることが大切です。
求人の頻度
海外の求人に限らない話ですが、短期間に何度も求人を出している職場は注意が必要です。退職者が多い、人が集まらないといった事情がある可能性が高いため、求人内容は慎重に確認しましょう。
日本語教師の海外での需要は?
世界中に日本語学習者がいる
2021年度に実施された国際交流基金の「海外日本語教育機関調査」によると、世界141の国・地域で日本語教育の実施が確認できました。学習者の数は約380万人と、世界各地で日本語教育が行われていることが分かります。
一方で、機関に所属する日本語教師は約7万5,000人です。単純計算で教師一人当たりの生徒は約51人ということを考えると、まだまだ教師の数は足りていません。さらに日本語母語教師の割合は17.7パーセントと、日本語を母語とする日本語教師はあまり多くありません。
このような状況から、海外での日本語教師の需要は高いと考えられます。
アジア圏で人気
特に日本語教育のニーズが高いのはアジア圏です。全世界における地域別機関数の割合を見ると、東アジアが約38パーセント、東南アジアが約27.4パーセントです。これらの地域だけで全体の約65パーセントを占めています。
さらに、正式な外国語科目として日本語の授業を実施している国や、大学入試の外国語科目で日本語を選択できるところもあり、ニーズの高さがうかがえます。
日本語教師のスキルを学ぶには?
資格取得がおすすめ
日本語教師自体には資格の規定がないとはいえ、海外で働く際も、資格を持っていることはアドバンテージになります。日本語教育能力検定試験合格者や420時間養成講座修了者、大学での日本語教育専攻などを条件に提示している求人は少なくありません。
「要資格」「資格に応じて給与アップ」という求人もあるため、資格を持っていると就職活動の選択肢が広がります。
日本語教師の資格を取得することは、基礎から知識・スキルを身につけられる上に、日本語教師としての質を証明できるというメリットがあります。中でも2024年4月からスタートした国家資格の「登録日本語教員」は、日本語教師としての質を担保する資格です。
ただし、まだ比較的新しい資格であることから、海外の求人には「登録日本語教員」が明記されていないこともあります。
今後より認知が進んでいけば、国家資格であることから信頼性の高い資格として評価される可能性は大いにあります。海外の教育機関側が「登録日本語教員」を知らない場合は、文部科学省の資格説明や資格証明書の翻訳を提出することで、理解を促すことができます。
オンライン講座なら海外でも学べる
すでに海外で暮らしていて、「現地の学校で日本語教師になりたい」という方は、オンライン講座で資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
「登録日本語教員」の主な取得方法は、養成機関に通う「養成機関ルート」と独学で試験を目指す「試験ルート」です。「試験ルート」の場合は、養成機関に通う必要がないため、どこでも学習が可能です。
「試験ルート」向けにオンライン講座を開講しているスクールもあり、海外在住の方でも受講できます。日本語教員試験は日本で受験する必要がありますが、資格の勉強はどこでもできるためおすすめです。
まとめ
海外で日本語教師として働く場合も、資格はアピールポイントとして有効です。これから資格取得を目指す方は、資格としての信頼性の高い「登録日本語教員」を目指してみてはいかがでしょうか。
海外の求人では、日本語教師としての実務経験が必要な職場もあるため、これから日本語教師を目指す方は国内で経験を積むことをおすすめします。「登録日本語教員」を取得している場合、国内の認定日本語教育機関で働けるようになります。
国家資格取得は日本国内・国外で活躍できる人材になる大きな一歩となります。興味がある方はぜひ挑戦してみてください。














