田中道博さん
同志社大学法学部卒業後、旅行会社に11年間勤務。その後、人材サービス会社に転職し、派遣営業や有料職業紹介業務に従事。2008年にキャリアコンサルタント資格を取得し、2014年にあしあとみらい研究所を設立。2017年に法人化した。現在は企業の外部キャリアコンサルタントとして経営支援を行いながら、キャリアコンサルタントの養成・更新講習の講師も務める。
【保有資格】
国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、軍師®認定コンサルタントS級、社会保険労務士、AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士など
現在の活動
企業の「人の問題」に経営全般からアプローチする
外部キャリアコンサルタントとして企業の中に入り、顧問のような立ち位置で「人の問題」が解決に向かうよう、支援活動をしています。特に経営者の方から、人材育成や社内の人間関係、労災、ハラスメントなどの相談を多くいただきます。
企業において、人の課題は単体で発生するケースもありますが、背景に人の課題以外の潜在的な問題が複合的に存在するケースがあります。表面的には人間関係による退社など「人」の問題として表れているけれども、事業戦略上の課題が背景にあり、自社の将来性に不安を感じて人が辞めていくといったケースです。
キャリアコンサルタントとしての人や組織に関する専門性を活かし、ヒアリングを通して問題の真の原因を経営者とともに見出し、それに応じた提案を行うことで、組織全体を改善し問題解決をサポートしています。
組織全体の改善をするためには、経営者と対等に話し合いできるよう、経営について理解することが不可欠です。例えば、軍師Ⓡ認定コンサルタントの取得を通して学んだ経営の視点や、社労士の専門領域である制度面の知見は、支援をする上で非常に役立っています。
事業承継という人生をかけた決断を支援するやりがい
現在特にやりがいを感じている領域は、企業の事業承継に伴う後継者の支援です。オーナー企業においては、ご子息・ご息女に事業承継するケースが多く、なかには受け身な姿勢の後継者もいます。ですが、受け身では経営はできません。事業を受け継ぐのは、人生をかけた一大決心です。
そういった方に、いわば人生の分かれ目をつくるのがキャリアコンサルタントの仕事です。事業を継ぐ以外にも、会社員として働く、自分のやりたい事業で起業するといった道もあります。様々な選択肢があるなかで、2代目・3代目として会社経営を選択するという意思決定をしてもらいます。
いろいろな葛藤を乗り越えて人生の決断をする姿や、従業員への感謝を語る姿を見ると、成長をサポートできたと感じ、すごく達成感がありますね。
フラットな姿勢で管理職支援と向き合い続ける
「人の問題」への取り組みのなかでも、管理職支援は特に難しいと感じています。管理職の方々は、長年にわたり自分のやり方で成果を出しています。その分、頭ではわかっていても、世代間の考えの違いを受け入れられない、自分を守るために本心を見せないといったケースが少なくありません。
そのままでは適切な支援ができないので、フラットな関係をつくれるよう、一人の人間として接することを心がけています。
特に印象に残っているのが、会社の指示通りに動くことに疑問を感じていた取締役の方を支援したときのことです。お話を重ねるなかで、その方が「自分の仕事に納得感を持ったことがない」と心の底で感じていたことが伝わってきました。
そのことをご本人にお伝えしたところ、すごく晴れやかな表情に変わったのが印象的です。すぐに具体的な何かが変わったわけではないですが、ずっと個を押し殺して役割意識に従って仕事をされてきた方に、自分について考える機会を提供できたと考えています。
キャリアコンサルタントを目指したきっかけ
正しい情報を届け、本当に適したキャリアを選択できるようサポートしたい
新卒で旅行会社に入社し、約11年間勤務しました。障害者向けのツアーを通じて人の温かさや感謝することの大切さを、アスリート関係者向けのオリンピック観戦ツアーでは人から感謝されることの素晴らしさを学びました。
キャリアコンサルタントという資格と出会ったのは、2社目の人材サービス会社です。人材サービス会社では、派遣業務と有料職業紹介業務に従事していました。会社の利益を考えると、派遣スタッフに長く活躍してもらうことが大切です。しかしその人の人生を長い目で見ると、中には、安定していて待遇がしっかりしている正社員で働いた方が良い人もいるのではないかと感じていました。
派遣スタッフが自分にとって本当に適したキャリアを選べるよう、例えば年金制度についてや、雇用の安定につながる情報などを正しく提供できる存在になりたいと思うようになり、FP(ファイナンシャルプランナー)や社労士の資格を取得しました。しかしキャリアについて深く考えられるバックボーンが必要だと感じ、2008年にキャリアコンサルタントの資格を取得しました。
個人と企業をセットで支援することで真の問題解決につながる
独立を決意したのは、より支援の幅を広げたかったからです。人材サービス会社での仕事は、すごくやりがいがありましたが、サポートする方々は皆、企業がお金を出してでも欲しい人材ばかり。それよりも、就職活動を頑張っても仕事が見つからない、そんな人たちを支援したいと思うようになっていました。
ただそれには、会社員のままでは難しいと感じていました。そこで、キャリアコンサルタント養成講座のインストラクターに合格し、経済的な基盤がある程度できたタイミングで独立を決意。2014年にあしあとみらい研究所を設立しました。
企業経営全体に興味を持ったのは、根本的な問題解決には個人の支援だけでは不十分だと考えたからです。キャリアコンサルタントの仕事の専門性は、個人の支援です。しかし、人を金魚、企業を金魚鉢に置き換えると、金魚の健康を回復させても、戻す金魚鉢(=企業環境)が汚れていれば、再び病気になってしまうかもしれません。個人の支援と企業の支援をセットで進めることが、問題解決につながると考えています。
キャリアコンサルタント試験のアドバイス
実技は「本当に支援をするつもり」で臨むことが大切
講師の立場として試験についてアドバイスを求められることがありますが、筆記については、過去問だけを徹底的にやれば十分だと伝えています。テキストを辞書代わりにして、過去問を解いて分からなかった部分を理解していくといったやり方がおすすめです。過去問全ての問題に対し、「なぜこの答えになるのか」を完璧に説明できるようになることが、合格への近道です。
実技については、試験を受けるという意識ではなく、本当に支援をするつもりで臨んでください。試験で評価されると思うと緊張して、普段の力が出せないかもしれません。支援だと考えることで相手に興味を持つことができ、その姿勢が相手に伝わることで、相談者の気づきや成長につながるキャリアコンサルティングができると思います。
更新講習はキャリアコンサルタント同士で学び合う貴重な場
資格取得後は、5年ごとに更新講習を受講して、更新登録する必要があります。自分の会社で更新講習の運営をしていますが、その中では人から学び、自身の活動へのモチベーションを高める場となるよう意識しています。
グループワークでは発表に向けチームで議論するなかで、他のキャリアコンサルタントから現場の情報や考え方を学べます。普段の業務のなかでそうした機会を得るのは、簡単ではありません。知識・技術の習得を超えた、貴重な学び合いの場だと感じています。
更新のために義務的に受講する人も多いですが、「参加して良かった」「続けるか迷ってたけど、仲間から刺激を受けてまた頑張ろうと思えた」といった声を多くもらっています。
キャリアコンサルタントとして
理想の支援は、相談者に自分自身について考える場を提供すること
私の考える理想の支援は、相談者が自分自身について考える場を提供することです。つい自分自身の仕事の経験から、解決的な視点でアドバイスしたくなります。けれども、相談者がその通りに行動し、表面的には問題が解決したように見えても、本質的な解決にはなりません。
大切なのは、外からアドバイスするのではなく、相談者の生き方を尊重する謙虚な姿勢です。そのためには、キャリアコンサルタント自身が自己理解を深めることが一番重要です。自分の衝動や行動の背景を日常的に考える必要があります。
あらゆる人に興味を持ち、相手が話しやすい空気をつくることが、良い支援への第一歩だと思います。とはいえ、私自身も日々葛藤している部分で、まだまだ修業中です。
これからキャリアコンサルタントを目指す方へ
キャリアコンサルタントの知識・スキルだけではなく、経営についても学んでいただきたいです。今後はキャリアコンサルタントの活動領域のなかで、企業への支援が花形になっていくでしょう。厚生労働省は10万人計画を立て、キャリアコンサルタントの数を大幅に増やそうとしています。その背景には、企業領域の支援に携わるキャリアコンサルタントを増やし、社員一人ひとりがより充実した働き方を実現することで、生産性の向上につなげたいという意図があると考えています。
また、良い支援をするには、自分を過信せず謙虚さを保つことが不可欠です。キャリアコンサルタントは、決して支援を成功体験にしてはいけないと思っています。相談者に取ってプラスになれば、キャリアコンサルティングは成功だといえますが、基本的にフィードバックはありません。そのため、自分で成功か否かを判断するのは難しいからです。
振り返りをしたり、スーパーバイザーから客観的なアドバイスをもらったりすることで、常に知識や技術を磨くようにしましょう。
今後について
誰もが気軽にキャリアコンサルティングを受けられる「あたたかな社会」の実現
目標は、「個人の成長を通じ、輝く組織・成熟した社会の実現」です。具体的には、キャリアコンサルティングが身近になり、社会のインフラのようになっていて欲しいですね。銀行の窓口でキャリアについて相談できる、郵便局に常駐するキャリアコンサルタントが接客の会話の中でさりげなく問いかけ気づきを促すといったように、日常的にキャリアについて相談できる、あたたかな社会が理想です。
直近の目標は、新しい講習を増やしていくことです。オンライン化により全国からの受講者が増加しているので、学びの場を提供していきたいと考えています。
お客様の支援やキャリアコンサルタントへの教育に取り組むことで、誰もが気軽にキャリアコンサルティングを利用でき、生き生きと働ける社会が実現するお手伝いができたら嬉しいです。